製造業の技術継承の現状と課題、ITを活用した事例を紹介

製造業における技術継承の現状と課題

人材不足が深刻化している製造業における大きな課題の一つとして、「熟練者から若手への技術継承」が挙げられます。

技術継承が重要であると認識しているものの、「どのように進めたら良いかわからない」「他の企業はどのように技術継承を進めているのか?」と感じている製造業の方も多いのではないでしょうか。

この記事では、製造業における技術継承の現状と技術継承問題、技術継承問題を解決する事例について紹介します。

自社の技術継承の現状分析や企業戦略の構築、ITシステム導入の参考にご活用ください。

技術継承とは?

技術継承とは?

技術継承とは独立行政法人 労働政策研究・研修機構によると以下のように定義されています。

「業務を継続的に行っていくため、ものづくりにかかる知識やスキル・技能を後輩や次世代に伝え、受け継いでいくこと」

引用: 「ものづくり産業における技能継承の現状と課題に関する調査」|独立行政法人 労働政策研究・研修機構

熟練者のもつ感覚や技術・経験などの情報を新入社員や若手の社員に伝えることで、技術が廃れることなく社内に受け継がれ、事業を継続できます。

熟練者の技術は生産現場において非常に重要です。そのため、技術継承を重要と感じている製造業は多い傾向にあります。

厚生労働省の「能力開発基本調査」によると、約92.7%の製造業が『技術継承の取り組みを実施している』と回答しています。

また、独立行政法人 労働政策研究・研修機構の調査によると、約94%の製造業が『技術継承を重要と感じている』と回答しています。

技術継承の現状と問題

技術継承に対して製造業がどのように感じているのか抱えている問題や課題についてみていきましょう。

現状、技術継承に対して多くの企業が問題を抱えている

前述の通り、技術継承は多くの製造業が重要と認識していることは明らかです。

しかし、現場の実情からすると技術継承が順調に進められている企業は少ないようです。経済産業省の調査によると、約86.5%もの製造業が技術継承に問題があると回答しています。

また、将来の技術継承について約80%の製造業が不安を感じていると回答しています。

技術継承は重要であると認識しながらも、技術継承を進めることは難しく、不安を感じている製造業が多いというのが現状です。

技術継承の課題

技術継承の課題の一つとして、「伝承の仕組み・システムがない、または機能していない」ことが考えられます。

大阪中小企業診断士会の報告によると、技術伝承がうまくいっていない理由について約52.6%の企業が「技術伝承のノウハウ・仕組みがない」と回答しています。

また、厚生労働省の調査によると、約43.4%の製造業が「技術・ノウハウなどの伝承に時間がかかり円滑に進まない」と回答しています。

この問題を解決するには、社内で技術伝承を円滑に進める仕組みやシステムを構築し、社員の負担を減らすことが必須であると言えます。

技術継承の課題と業務の標準化による解決

約43.4%の製造業が「技術・ノウハウなどの伝承に時間がかかり円滑に進まない」とする中、なぜ時間がかかってしまうのか、円滑に進まないのかという点が技術継承の課題を解決する手立てになると考えられます。

厚生労働省が公表している「令和2年度能力開発基本調査」によると、能力開発や人材育成に関して、製造業を含めた多くの企業が社内のリソース不足を問題として挙げています。

調査結果の概要には、企業の54.9%が「指導する人材が不足している」、49.4%が「人材育成を行う時間がない」と回答した結果が出ており、業務をしながらの人材育成に大きな課題を感じていることが分かります。

これらの解決策として考えられるのは、マニュアルなどによる業務の標準化が一つの解決策になり得ます。マニュアル(資料や動画など)を活用し、誰でも同じ品質で作業できるように(標準化)することで自分が担っている業務を他の人に担当してもらい、時間を確保することが可能になります。

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ITを活用した技術継承の事例

技術伝承の問題を解決する事例の一つとして、ITを活用する方法があります。

熟練者の作業工程を写真や動画で残す

技術伝承の問題として、熟練者の感覚や経験をうまく若手に伝えることが出来ない事があります。

ITを活用し熟練者の感覚を文章や動画に残すことで、作業前や作業中、研修の際などいつでも熟練者のノウハウを学習することができます。特に作業工程の動画を撮影することは、暗黙知化した作業を表現するのにオススメです。

また、専用システムを導入することで、データ管理や検索、閲覧が簡単になり管理者や利用者の負担を軽減することもできます。

スマートフォンやタブレットで動画を閲覧可能にすれば、生産現場に端末を持ち込み検索・閲覧するといった活用方法も可能です。

また、生産工程を動画で撮影することは技術の継承だけでなく、生産現場を客観的にとらえることで製品の品質改善や現場の業務改善にもつながります。

その他にも、近年ではAR・VRを用いた技術継承の仕組みなど、新しい課題解決の方法が次々に誕生しています。※AR(Augmented Reality)は拡張現実、VR(Virtual Reality)は仮想現実を意味します。

中小製造業におけるITシステム導入の目的とメリットについては下記記事をご参照ください。

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VR技術を活用して熟練工の技術の視覚化・体験

最近では、VR・AR、メタバースデジタルツインといった最新のIT技術が製造業DXの中で推進されています。

そうした中で、製造業の大きな課題の一つである「技術継承問題」を解決する方法として、VR技術を活用した手段が期待を集めています。

VR技術でのメリットは、視覚的に体験・経験を共有できることにあり、かつ場所を選ばないため工場内などの機械が並んでいて、熟練工の横について作業を学ぶのが危ない場合にも有効に活用できることが考えられます。

事業を継続していく上でも、引退していく熟練工の技術を企業の資産として残していくためにも、技術継承は必須の課題と言えます。

工場のデジタル化が進む近年において、今後も様々なIT技術が登場すると考えられます。昔ながらの方法を守るだけではなく、新しい技術も取り入れていくことが重要になってきます。

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まとめ

  • 多くの製造業では熟練者から若手への技術継承を重要視し取り組みを実施している
  • しかし実情として継承に問題を抱えている企業が多い
  • 伝承の仕組み・システムがない、または機能していないことが課題
  • ITを活用し動画や文章で技術継承が可能

この記事では、技術継承の現状とITを用いた技術継承の課題を解決する方法について紹介しました。

技術継承は製造業にとって重要な課題である一方、多くの企業でうまく推進することができていないのが現状です。

事業を継続するためにも熟練者の経験を次世代の若手に伝える方法やシステムについて情報収集をはじめてみてはいかがでしょうか。

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